テーラーメイド、創造のビオトープ
2013年09月12日 category:ゴルファーニュースビオトープ。多様な生物の生息を可能にする空間…。そこは生命を育む場であり、それは言い換えると未来を創り出す場でもある。
もし、メーカーをひとつのビオトープとみなした場合、どのような条件が必要か。それは、技術者を育て、市場性の高い製品を生み出せる環境であることは、万人の共通認識だろう。ただ、それが最も難しく、最も達成されていないことなのであるが…。
9月。新作ドライバーが発売される。それは、次のような機能を謳う。
ヘッドが黒(メタリックブラック)で、
いわゆるカチャカチャ度を減らし、
叩かないと飛びにくく、
ロフト角を選べる。
これだけ書けば、テーラーメイド社のメガヒットドライバー、R1を意識し、それに対抗するドライバーであることは明らかであろう。そして、驚くことにこのドライバーが、同じテーラーメイド社から発売されるのである。
それが、SLDRドライバーである。
自ら創り出した市場に自らの製品で挑むという構図。多くのメーカーにはなかなかできない離れ業である。ヒット作に固執し、市場性を劣化される例は多く見られても、成功の法則に自社製品で挑戦するという例は、ほとんど皆無だからだ。
このドライバーのセールスポイント、
ソール内に配置されたレール上で、ウエートを自由に変えることができる。
B・スネデガーが使用し、カナディアンオープンで優勝した。
これらは、あまり意味のなさない枕詞なのかもしれない。つねに市場に自社製品の存在を問う姿勢をもつテーラーメイド社の新作ドライバーであることが重要なのだ。
メーカーにとって、激しい生存競争を生き抜く知恵。それは、つねに新しい製品を生み出そうとする熱意であり、意欲である。たとえ、自らスマッシュヒットを生み出しても、つねに貪欲に市場拡大を狙う。
米国コカ・コーラ社の中興の祖、ロベルト・ゴイズエタは、清涼飲料水のシェアで数十%を占めることに安住する役員に対して、人間が必要とする水分量に対して、自社製品のシェアはほとんどゼロであることを指摘し、従業員の慢心を諌めたと言う。市場に対する貪欲さは、不断の努力なくしては社風になじんでこないものなのだ。テーラーメイド社はそれがきちんと担保されているのであろう。
であるならば、テーラーメイド社内の技術者同士の競争は、苛烈なものであろうことは想像に難くない。その環境は、時として快適なものではないのかもしれない。しかし、その環境の中から強くたくましい市場性の高い製品が生み出されていることは紛れもない事実である。そして、その環境は、まさにメーカーのビオトープそのものではないだろうか。