『きょうは会社休みます』、新しい恋愛ドラマの風。
2014年12月15日 category:ゴルフモード・カルチャー「恋愛ドラマ」は、オワコン。そういわれて久しい。
『東京ラブストーリー』(フジテレビ)(1991年・平均視聴率22.9%)、
『ビューティフルライフ』(TBS)(2000年・平均視聴率32.3%)
など、数字も話題性もテレビコンテンツの中心であり続けた時代は、いまや昔。
いつの間にか、恋愛ドラマは、視聴率がとれないジャンルになっている。
月9の愛称で親しまれているフジテレビ月曜日9時からのドラマ枠は、恋愛ドラマを多く制作してきたが、最近はこの伝統的な恋愛ドラマ枠でも恋愛ドラマ離れが続く。
視聴率の数字が確定した2014年の7-9月期のラインナップで、恋愛ドラマと呼べるものは、 『同窓生』(TBS)くらい。
その『同窓生』も平均視聴率8.22%で下位に沈んだ。
恋愛ドラマの不振の理由は、さまざまな角度で分析されている。
例えば、
(1)携帯電話が普及し、恋愛ドラマの醍醐味のひとつの「すれ違い」がつくりにくくなった。
(2)恋愛の敷居が下がり、恋愛間の障壁と呼べるものがなくなった。
などだ。
確かにそれなりに説得力のある説だが、筆者はその分析に疑問があった。
(1)は、『君の名は』(1953年・松竹)がつくりあげた世界だし、
(2)に至っては、シェークスピアの『ロミオとジュリエット』まで遡るフレームだ。
(1)と(2)の要素が無くなったからといって、恋愛ドラマがつくりにくくなったわけではないのではないか。
いずれもその時代から生み出された、恋愛物語の要素。現代には、現代にマッチした恋愛ドラマの形があるのではないか。筆者は、単純にそう思っていた。
そんな中、日本テレビ系で放映され、12月17日に最終回を迎えた『きょうは会社休みます』(綾瀬はるか主演)は、その現代にマッチした恋愛ドラマだった。
恋愛経験の乏しい30歳になったばかりの主人公、青石花笑(はなえ)(綾瀬はるか)とイケメン大学生、田之倉悠斗(福士蒼汰)のさわやかで、ぎごちない恋愛物語。
このドラマでは、新しい恋愛ドラマの形を提案している。
それは、
ひとの恋愛を「応援」「分析」「アドバイス」したくなる視点を重視した構成である。
これまで、恋愛ドラマの定番の描き方は、疑似体験による「共感」だった。恋愛物とはそういうものとさえ定義していた人もあったほどの強く固定化された視点だった。
主人公の女性の目線をメインターゲットとなる女性視聴者が追い、恋人役となる男性は、理想の男性像に限りなく近づける。
ドラマを見ることで、恋愛感情を喚起させることが、視聴者の多くを惹きつけるという手法だ。
この強力な方向性に対して、このドラマで描かれる恋愛物語は、定番と一線を画した展開で、新しい試みといえる。
主人公、花笑は、女性視聴者が自分を投影するには躊躇のある地味な女性として描かれる。そこに傍観者としての視点が形成される。
俯瞰的に見る視点は、より花笑の恋愛であることを強化させ、共感の余地を与えない。
その心の動きは、冷静さを生み、上記のような「応援」「分析」「アドバイス」したくなる視点を生み出すことに成功している。
この脱共感路線ともいえる展開は、恋愛物語に新しい方向性を求めていた視聴者の心をしっかりつかんだ。
また、このような視点は、私のような男性視聴者にも納得できる要素を多く持たせる副産物も生んでいる。
テレビコンテンツとしての数字は、正直だ。
10-12月期クールのドラマで圧勝した『ドクターX』(テレビ朝日)に次ぐ2位を確保(2クールを跨ぐ『相棒』(テレビ朝日)を除く)。
『今日は会社休みます』は、最近の恋愛ドラマというコンテンツとしては、数字的に大健闘。
しかも真裏には、話題性抜群だった沢尻エリカ主演の『ファーストクラス』(フジテレビ)という強力なライバルの存在があったことを考えると平均視聴率16.0%は、立派な数字といえる。
また、この脱共感の恋愛ドラマは、マーケットの変化にもうまく対応した構成でもあった。
これまで恋愛ドラマの主なお客さんであったF1層(20歳から34歳までの女性)の絶対数が減っている。今の日本の人口比率で最も若いボリュームゾーンは40歳台。若い世代だけでなく、広い視聴者想定が、さらに視聴の幅を広げたといえる。
もちろん、恋愛ドラマの王道である「共感」に物足りなさを覚える視聴者もあったのは事実だが、コンテンツとして恋愛ドラマに新しい風を吹き込んだことはまちがないない。
テレビドラマは、正直に今の日本のおかれた状況を反映するものだ。旧来型の思考でドラマを制作しても、今の視聴者に受け入れられる作品は生まれにくいのではないか。
この『きょうは会社休みます」は、そう痛感させられた作品だったといえる。